「合理的配慮」と「学びへアクセスする権利」

夏の全国ツアーも広島を終えて折り返し地点。
毎回新しい気づきを得られる。
それは自分が話しているうちにだったり、他の登壇者の話を聞いてるうちにだったり、参加者の方々と交流しているうちにだったり。


今日は「合理的配慮」と「学ぶ権利」について。
なるべく分かりやすく解説して、私の考えを書きます。

日本が2014年1月に批准した障害のある人の権利に関する条約には、
人間の多様性を尊重すること、排除のない社会のためにインクルーシブ教育システムを構築を構築すること、そして「合理的配慮」をすることなどについて書かれている。

同条約によると、

「合理的配慮」とは、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」

と定義されている。(文科省のサイトから


来年度(2016年4月)に施行される障害者差別解消法ではこの合理的配慮を否定することは差別とみなされることが明確に示されている。

障害者に対する不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供を差別と規定」(障害者差別解消法 基本方針)


分かりづらい定義だが、
つまり、障害のある人が、
「こういう工夫があれば、障害のない人と同じように機会が得られます!」と伝えた時、伝えられた側は
「そんなん無理だから!」とただ否定することは「差別」とみなされる。

障害のある方(子どもの場合は保護者も)から意思表明があった時、

・本当にその工夫が「合理的」か
・「合理的」で必要であるのであればどんな場面で必要か、どうやって工夫するか
・どうしてもその工夫ができないのであればその理由は何か、そして代わりにどんな工夫ができそうか

などを関係者で合意形成をはかり、実際に工夫をした後もPDCAを回していくことが必要である。
その一連のプロセスこそが「合理的配慮」。
一連のプロセスを経ないでただ否定することは差別である。

合理的配慮は極めて個別性が高い。
どの場面でどのような工夫が必要か。また、その工夫がどのように実行できるか。
何を「合理的」とするかは、その人の特性や年齢にもよるし、どれだけ環境が整備されているか、資源がどれだけあるかにもよる。

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もちろん教育においても「合理的配慮」が必要。

例えば読み書き困難のある子どもが、タブレットを使うことで学びにアクセスできるとする。
ノートが書けないので普段は学校でただ座ってるだけ。
その子どもと保護者から
「タブレット使えば授業内容にアクセスできるので、使わせてください!」
と意思表明をしたとする。

その時に
「いやーこの子だけ特別扱いできないので無理です。」
は実質差別とみなされる。

例えば「この子にはタブレットを使用した学びは不適切である」のであれば、その理由を本人保護者に伝え合意形成をはかる必要がある。
もしかしたら特定の場面ではそれが「合理的」な配慮となり、特定の場面ではならないかもしれない。
(大体の場合、導入するかしないかの二択で考えがちだけど、どの場面で必要かどうかが超大事)

例えば自分のタブレットをもっていなくて、更に予算もない、、、
のであれば、
その子が学びへアクセスできるように、別の工夫を共に考えて合意形成し、その工夫を実施した後も継続的にPDCAをまわしていく必要がある。

つまり、教育における合理的配慮は
「学びへアクセスするための権利」とも言える。

そのためには、
保護者や教員が「合理的配慮」を正しく理解するのみでなく、
子ども自身が自分の特性を他者に伝え、いろんなものへアクセスするためには自分にはどんな工夫が必要か、伝えられるようになることも大切。

特に教育の文脈では、何を「合理的」とするかは、極めて個別性が高い。
だからこそ、「これが合理的配慮だ」と一般化することは非常に難しい。

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「合理的配慮」の原語はreasonable accomodation。
accomodationは、直訳すると「調整」「調和」「和解」といった意味があるが、日本では「配慮」となっていて、その語感から「してあげるもの」と誤解されがち。
(そのためこの記事ではあえて「工夫」としています)

「合理的配慮」は、周りの人が勝手にその人に必要な工夫を決めるのではなく、その人自身が自分に必要な工夫を知って、それを他者に伝える当然の権利を保障するもの。

本当はそれが誰にとっても当然だけれども、障害のある人にとっては余計に周りの人がその人の自己決定を無視しがち。だから「合理的配慮」を法的に位置付けている。
と、わたしは理解している。

で、いろいろ考えたんだけど、
そもそも「子どもの学ぶ権利」があまり根付いていない日本だから、この「合理的配慮」が義務付けられることによって、いわゆる障害のない子より、障害のある子どもの方が、自分の学ぶ権利を主張できるようになるのでは?
ということ。
つまり、「障害」のない子どもが、「ここ分からないんで、先生教え方をちょっと工夫してください!」
って言ったとしても、「おまえは障害ないんだし、頑張って理解しろよ」ってなったり、、、



本来はどんな子どもにも「学びへアクセスする権利」がある。

私たちの教育、
本当に全ての子どもの学びへのアクセスを保障してるかな?

まずはそこを考えないと、
本当の意味での「合理的配慮」は実現できないかもしれない。
「障害があって仕方ないからやってやるか」みたいになりそう、、、

そうならないためにも
正しい理解啓発とグッドプラクティスの言語化・蓄積・発信が大切。

こちらのプロジェクトもグッドプラクティスとして発信します!

Windowsクラスルーム協議会/「合理的配慮へのICT活用」推進プロジェクトを発足



本当は関連してもう一つ書きたいことがあったのだけど、長くなったので今日はここまで。

障害者差別解消法の対応要領、対応指針の案がでています。そろそろパブコメかな?

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今後のツアーでもこんなお話するので、興味ある方はぜひお越しください!!


【沖縄・那覇市】
8月16日(日)13:00~16:15
「インクルーシブ教育最前線」
講演:
野口晃菜氏(株式会社LITALICO執行役員/筑波大学大学院博士課程)
仲間知穂氏(NPO法人ADOCproject理事/琉球リハビリテーション学院)
シンポジウム:
大城政之氏(県立島尻特別支援学校 校長)
青木一桂氏(名護特別支援学校教諭)
末広尚希氏(ライオンの子保育教育グループ代表取締役)
野口晃菜氏
仲間知穂氏
http://kokucheese.com/event/index/302123/

【兵庫・神戸】
8月22日(土)10:00~18:00
第2回探求する学習者の会
「どの子も居場所のある授業づくり」
http://kokucheese.com/event/index/292678/


【東京・中目黒】
8月30日(日)13:30~16:30(東京・中目黒)
インクルーシブ教育中級者研修
「行動面に困難さのある子どもへの支援」
http://leaf-school.jp/renkei/post-2.html

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