インクルーシブ教育研究のために必要なコラボレーション

毎回お伝えしているが、インクルーシブ教育とは
「全ての学習者にニーズがあることを前提とした教育システムを作っていく過程」。

最近出版された
荒川智・越野和之「インクルーシブ教育の本質を探る」には下記のように記してある。

「インクルーシブ教育には(中略)通常教育そのものの改革、とりわけすべての学習者のニーズの多様性に対応し、さまざまな学習スタイルを可能にするようなカリキュラムや指導法、学級・集団編成の多様化・柔軟化が不可欠であり、本質的な問題」

以前書いた「インクルーシブ教育と特別支援教育の違い」にも書いたが、そもそもの教育を考え直し、全ての子どものニーズに耐えうるものにしていく過程こそがインクルーシブ教育である。

そのため一つの学問領域のみで「インクルーシブ教育」について研究をしようとしても仕方ないと思っている。

インクルーシブ教育研究のためには、領域を超えたコラボレーションが必要である。

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ご存知の通り、特別支援教育(特殊教育)の分野で「インクルーシブ教育」の概念は生まれているが、インクルーシブ教育は特別支援教育の枠組みを超えた、教育全般における概念。

そのため、特別支援教育の領域のみで「インクルーシブ教育とは何ぞや?どうやったら達成できるのか?」の議論をしても仕方がない。

今ある「インクルーシブ教育」とタイトルにある研究がどのようなものか?と言うと
例えば
「インクルーシブ教育における教員養成」
「インクルーシブ教育に向けた特別支援学校のセンター的機能や組織構築」
「海外におけるインクルーシブ教育」
⇒どの研究も、「インクルーシブ教育」を「通常学級における特別支援教育」としてしかとらえていない。「インクルーシブ教育」を「インテグレーション(場の統合)」としか捉えていない。

これはこれで大事な研究なんだけれど、本当はもっと別軸での研究が必要である。
これではいつまでたっても、
「通常教育も特別支援教育のこと知らなきゃだめだよ!」から抜け出せない。

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そこで、あたしが博論を終えた暁には、下記のような研究をしたい。
そのためには、他領域とのコラボレーションが欠かせない。
今その種まきをしている。興味ある人、一緒にやろう!

・誰もがアクセスできる「教科の本質」を捉えたカリキュラムに関する研究
⇒教科教育のプロとのコラボがしたい。そもそも「国語」って教科の本質はなんなの?その時に、特別支援学校学習指導要領の知的障害教科と、通常の国語の教科との連続性を整理することはそのヒントに繋がるのではないかな?と思う。そもそも誰にとっても必要な「国語的能力」

・「国語・算数・理科・社会」以外のカリキュラムに関する研究
⇒日本におけるいわゆる「隠れたカリキュラム」的なところを整理したい。行動面や生活面で、誰もが必要なスキルってどんなスキル?どんなニーズがあったとしても、習得を目指すのは集団行動スキル?それとも自己決定スキル?

・指導法・教授法の研究
⇒最低限必要な教科的スキルを学ぶための指導法・教授法について研究したい。「読み」を覚えるためのもっとも効果的な方法は?また、どんな特性の子にどんな指導をするのが良いのか?それをエビデンスに基づき決めるためには?
Precision Teaching, Direct Instruction, Curriculum-based Instructionなどを参考に。
⇒あとは、エビデンスどうこうではなく、多様な学び方について研究したい。


・学校経営・学級経営の研究
⇒2個目に関連するけれど、望ましい学校経営・学級経営に関する研究。パフォマンスマネジメントを参考にしたい。

・チームアプローチに関する研究
⇒多様な専門家があつまって、一人の人に関わる時に必要なチームアプローチについて研究したい。

今思いついただけでこんな感じ。

人権教育の専門家や、多文化教育の専門家、ソーシャルワーカーやキャリア教育の専門家、教科教育の専門家、オルタナティブ教育、シティズンシップ教育、平和教育、学び合い、いろんな専門家とコラボしたい。

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ついでに偉そうに言う。

特別支援教育の分野の研究をしている人たちは、もっとコラボしたらいいと思う。

まずは、「特別支援」「障害」の中だけでもいいから、いろんな人と関わったらいい。
「教育系」「心理系」「行動系」の枠の中でしか交流がなかったり、研究室にこもっているのはもったいない。あとくだらない派閥にとらわれるのももったいない。

そしていつまでたっても「通常教育」の責任にしているのは、おかしい。
「通常教育を改革しなきゃだめ」なら、そこに向かおう。
「通常教育」の人たちと対話しよう。

自戒も込めて。

なーんて言っていても仕方ないから、たんたんと事実を作り続けるだけなんだけど。


参考:
「インクルーシブ教育の本質を探る」



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