インクルーシブ教育における専門性

今日は第3回目のインクルーシブ教育研究会、通称「あぜみ」でした。
「あぜみ」は、インクルーシブ教育を領域横断的に検討する研究会。
現在、教育学、医学、教育哲学、特別支援教育学、福祉、心理学などを学ぶ学部生・大学院生を中心とし、10名程のメンバーで月に1回集まっています。

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インクルーシブ教育について考える時、既存の学問領域の枠組みを超えてその在り方を考えなければならない。その理由はこちらこちらに書いた通り。

あたしが研究している特別支援教育の分野のみで考えても、「心理系」「行動系」「教育系」などと専門分野が分かれており、互いの研究について知ったり、それぞれの目指す方向性を共有したりする機会があまりない。

そのため、まずは互いのことを知り、それぞれが「インクルーシブ教育」をどう考えるか、目指す方向性を共有し、お互いの役割を理解していく作業が必要と思っている。

その上で実践レベルで領域横断型アプローチが確立できれば、最高。

本日の参加者は8名。
そして、本日のお題は「インクルーシブ教育における心理職の役割」と「しょうがいのある子どもとしょうがいのない子どもの学びの場」について。

その中で自分が最近関心のあるテーマについてつい語ってしまった。


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インクルーシブ教育における「専門性」について。


以前の繰り返しになるが、あたしの中でのインクルーシブ教育の定義は

①全ての学習者には何らかのニーズがあることを前提とし
②その多様なニーズに対応できる教育システムを目指し
③そのような教育システムを作っていく過程

であるとした。

「何らかのニーズ」とは、「学習をする上でのニーズ」であり、それは学びにくさや、学校での過ごしにくさにあるかと思う。

そしてそのようなニーズは「個」と「個を取り巻く環境」の中で生じるものである。
これは、以前「障害」と「支援」について書いた時にも触れた。
この「個を取り巻く環境」は、家庭レベル、学校レベル、地域レベル、国レベルがある。

そのため、インクルーシブ教育における専門性を考えた時、「個」へのアプローチと「個を取り巻く環境」へのアプローチの両者が必要と考える。それも、いろいろなレベルでのアプローチが必要。

個へのアプローチとは直接支援であり、例えば障害のある子どもに対する学習支援やソーシャルスキルトレーニング、不登校である子どもやいじめを受けている子どもに対するカウンセリングなどが挙げられるかと思う。子どもが学びにくさを抱えていたり、過ごしにくさを抱えていた時に、子ども自身に働きかけ、子どもが変わることを目指しているもの。

もちろんこれは学校教育の中では重要である。
でも、子どもが変わることで、本当に学びにくさや過ごしにくさはなくなるのか。

学びにくさや過ごしにくさが個と環境の中で生じているという考え方の場合、なぜそもそも学びにくさや過ごしにくさが生じているのか、をより詳細に分析する必要がある。
その要因は必ずしも「個」のみにあるわけではない。

インクルーシブ教育の専門家は、「学びにくさ」や「過ごしにくさ」が「個と環境」の相互作用の中で生じていることを前提とし、その要因を分析する必要がある。

環境へのアプローチは、過ごしにくさを生んでいる要因を明らかにし、その上でその学校の文化で実行可能な手立てを提案する。その手立てが環境の中で運用されるように交渉・調整をする。

例えば、ミクロなレベルで言うと、
「漢字を記憶して書くことに困難さがある」が故に学びにくいと感じている子どもに対して、個へのアプローチとしては、学習指導をする。その子にとっての漢字の覚えやすさを提案したり、最低限覚える漢字の量を提示する。
環境(学校)へのアプローチとしては、その子にとって覚えやすい漢字の学習方法を提案し、学級の中でその方法が運用されるように交渉・調整をする。例えば「漢字にはいろいろな覚え方があること」を学級全体に提示してもらったり、その手法を誰もが選べるようにしてもらったり。誰もが異なる学び方をするという文化を学級の中で創ったり。

それをマクロなレベルで考えると、
多様な学習方法があることを誰もが認識できるように教職課程自体を変えるようなアプローチをしたり、「そもそも漢字ってどこまで覚えておく必要があるの?」というような問題提起をしたりすることで、「個」と「環境」(国レベル)の間にある「学びにくさ」にアプローチすることができる。


「いじめ」はどうだろう?
個へのアプローチと環境へのアプローチ。
その「環境」も学校レベルのアプローチと、国レベルのアプローチ。



インクルーシブ教育における専門性は、

①過ごしにくさ、生きづらさ(ニーズ)のアセスメント(個と環境、それぞれのレベルで)
②提案力(実行可能な手立てや解決策の引き出しの多さ)
③交渉・調整力(実践に移すために周りの人を巻き込む力)

ここらへんにある気がする。
学校レベルの専門家でも、国レベルの専門家でも、同じ。


もう少しでいろいろ見えてきそう。

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